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(勝手に)ART-SCHOOLやSPITZやGRAPEVINEの楽曲を全曲解説するBLOGです。
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『とげまる』

スピッツ
A-hi Records
(2010-10-27)

 
現時点で、スピッツの最新作であり、現代スピッツの集大成的な名作。

『三日月ロック』以降のハイファイで躍動的なサウンドメイキング、『スーベニア』以降の現代的な邦楽ロックのフォーマットに沿いつつひねくれた曲構成に、中期、特に『インディゴ地平線』〜『フェイクファー』で見られた、澄んだ想いゆえの残酷で、純粋な世界観が乗せられている。

まずサウンド面では、『スーベニア』以降(兆候としては『三日月ロック』の時点で既)に見られた、どこか「若作りしている」とも揶揄されがちだった、アップビートな曲調をスピッツお得意の驚異的なポップセンスでコーティングすることにより、立体的で説得力のあるものになっている。一曲ずつ見ると、BUMP OF CHICKENやSTRAIGHTENER、100sにエレファントカシマシのようなテイストの曲も多いが、もちろん、それらの最新のシーンに追随するような形では無く、自らのメロディをもってうまく食い入っている野心さも見られて面白い。


しかし、それだけなら、この『とげまる』は名作にはなり得ないだろう。
なぜなら、このアルバムは、ここのところ、なりを潜めていた、彼らのフェイク性、嘘、そして、猛毒が隠されているだけでなく、それらが、純粋ゆえの毒であることが、いとも平然と歌われているからだ。
「ビギナー」と言う無垢な世界から始まり、「初恋クレイジー」の更に次の世界を思わせる「恋する凡人」へと繋がっていく最初の流れから見ると、力強い優秀なポップバンドであるが、「TRABANT」以降から、だんだんと「とげ」が露骨に見え始め、「えにし」でどんどん歪み、遂には「どんどどん」、「君は太陽」のラスト2曲では完全な背徳を体現している。

このアルバムは、<<ビギナーのまま/動き続けるよ>>という無垢な祈りから始まり、<<理想の世界じゃないけど/大丈夫そうなんで>>という歪んだフェイクに着地することに、最大の意味があるだろう。
そう言う意味では、ビギナーのまま、曲がっていく一人の人間を主人公にしたコンセプトアルバムのようにも見えてしまう。

マサムネはMUSICA誌において、この「とげ」を堂々と出しながらも「まる」も臆せずに出すスタイルは「昔からアングラ/サブカルに憧憬を抱いてる部分の俺をちょっと騙しつつやってた面もあってたけど、もう今回はサブカルに憧れる俺も納得するような感じになった」と豪語している。

純粋であるが故に、それから逃れられず、純粋なまま崩れて、溺れていく。
それは、中期スピッツが描いていた世界観でありながら、今、この時代で、このサウンドで鳴らされることに奇妙な説得力を持っている。
まさに、「とげ」と「まる」が共存する世界。
「まる」が無ければ、「とげ」はなく、「とげ」のない「まる」もまた、「まる」でない。


内ジャケは『三日月ロック』同様に、ザラッとした手触りのもので、それも、昔からの世界を継承していることを思わせる。

2010年10月リリース。

1.ビギナー
結成から4半世紀を迎えようとするスピッツの、今だからこそ鳴らされる決意表明の曲であり、この「純粋さ」を突き詰めたようなアルバム『とげまる』のオープニングを飾るにふさわしいシングル曲。
イントロからド級のパワーポップサウンドが鳴らされて歌い出されるのは、希望から少し離れた自分と、そんな場所で見つけた「君」との対比。これは、「世界に歪められていく僕とそれを救ってくれる君」が大前提だった初期〜中期の彼らを思い出さずにはいられないだろう。
<<暗い街に/火をともす/ロウソクがあったよ>>などは、それをそのまま言葉にしたような一節。
しかし、<<懲りずに憧れ/練り上げた嘘が/いつかは形を持つと信じている>>を決して見逃してはいけない。結局、生身のままでは、「君」には届かないのだ。だから、マサムネが超初期から使い続けている「嘘」は絶対に必要で、それが形を持つことでこそ、見える地点。ビギナーであるからこそ、そこにまで気付けてしまうのだ。どうか届くように、という切実な願いが綺麗。


2.探検隊
久し振りのセルフプロデュース。仮タイトルの時点では、「ピカプカ探検隊」だったようで、それは歌詞にも反映されている。
まるで、『名前をつけてやる』の「ウサギのバイク」〜「日曜日」の流れを彷彿させるような、前曲から一転、パンキッシュなサウンドが心地良い。
「ビギナーのまま動き続けるよ」といった自分が、一歩踏み出していくかのような力強い歌詞。
<<心をひとつにし/掟を蹴り破れ>>も後々の曲のそういった言葉に比べるとまだ幾分、その言葉の持つ意味が判っていないような、ピュアさが見える。


3.シロクマ
『ハチミツ』期を思わせるエバーグリーンなメロディのイントロが印象的なポップソング。
まさにスピッツの「まる」の部分の象徴とでも言うような、優しくも切ない歌詞に美メロで言うことはないだろう。前曲のパンキッシュなムードを吹き飛ばすつなぎとしても素晴らしい曲。
もちろん<<惑わされてきた/たくさんの噂と/憎悪で汚れた/小さなスキマを>>という形で劣等感を持ちながらも、どうにかそこに押さえつけられず進んで行くという強かな想いをハッキリと示しているのも抜け目無く、良い。


4.恋する凡人
まさに「初恋クレイジー」カスタムとでも言うような、その世界を継承した曲。
「初恋クレイジー」では過剰なほどの(初恋ゆえの)自意識と、<<例えば/僕が戻れないほどに壊れていても>>というくらいの破滅的なまでのドキドキが止まらないっ、と言ったようなキュートで微笑ましい世界だったが、この曲では、それを受け止めた上で<<今走るんだ/土砂降りの中を/明日が見えなくなっても>>と文字通り、突っ走っている。
もちろん「やり方なんて習ってない」し、「リセットボタン使わず」にいたいから、「例えば僕が戻れないくらいに壊れていても」なんて一抹の後悔もよそに、<<君のために何でもやる/意味なんてどうにでもなる>>と言い切っていて、更に微笑ましい。
しかし、最後の<<定まってる道などなく/雑草を踏みしめていく>>をお見逃し無く。「定まっている道などな」いと、思い込んでいるのか。この一節は、後々の曲を聴いた後に、もう一度聴き直すと意味合いが変わってくるようにも思える。


5.つぐみ
「愛してる」という言葉から始まるサビはどうしても、「チェリー」を思い返させずにはいられない。
申し分ないパワーポップサウンドで、まさにスピッツの(中期の)シングル曲といった感じか。サウンド的には、「恋する凡人」の流れから、上手いつなぎになっているが、歌詞的には割と既に恋人がいる感じがあるのだけど、どうだろうかとも最初は思えるかも知れないが、最後に<<「愛してる」/この命/明日には/尽きるかも/言わなくちゃ/できるだけまじめに>>と歌われているところから、片思いであることが分かる。


6.新月
「Y」などを思わせる閉じたポストロック的な解釈のサウンド。亀田プロデュースの功といった感じの作品。
「新月」というタイトルの割に、最初から「月も消えた夜」と歌われていて、真っ暗闇である。
全体的にサビの<<明日には会える/そう信じている/あなたに>>など歌っていることや、時間帯などの世界観は「スターゲイザー」に近しいが、こちらの方が幾分、不健全な感じがするのは<<止まっていろと/誰かが叫ぶ/真中に>>などの言葉や歌い方からか、どこかまじないじみているからだろうか。とにかく、「それでも僕は逆らっていける」と決意しているし、<<孤独を食べて/開拓者に>>などは、どこか不自然ながらそれでも前に向かっている。


7.花の写真
『orbital period』期のBUMP OF CHICKENを思わせるような軽快なマーチングっぽいドラムとフォーキーなギターサウンドとタイトルの曲。
このアルバムは基本的に、「シロクマ」や「つぐみ」などの「まる」っぽい側面の曲が交互に出てくることが多いが、この曲もその一つと言えるだろう。<<水たまりを飛び越え/早足で歩く>>などは「仲良し」を思わせるし、陽の光に包まれた地点に立っているようだ。
でも<<泣きそうな君が/笑いますように>>と言っている割に手紙を送るだけと言うのは、どこか気味悪くもあるような感じはするが。


8.幻のドラゴン
イントロのテツヤのギターフレーズが印象的な「恋する凡人」以来のアップビートの曲。
全体的な感じは、恋におざなりになっていた自分にとって、久し振りにスイッチが押されてしまった、という感じだろうか。そう言う意味では「幻のドラゴン」は「運命の人」の<<ここにいるのは/優しいだけじゃなく/偉大な獣>>と同義だろう。
久し振りの恋愛だから、劣等感を抱えつつも、どこか強気になっている感じが面白い。<<君に夢中で泣きたい>>も純粋な気持ちそのままで良い。


9.TRABANT
タイトルや曲調がSTRAIGHTENERを思わせる曲でありながら、このアルバムの転換点として最も大切でもある曲。この曲を境に「ビギナー」の純粋性の形が変わってくる。
1番から今までは形にならなかった想いをどうにか昇華しようと願っている姿が見えるが、凄まじいのは、何と言っても、2番のAメロだろう。
<<寸前の街で生まれて/しずくに群がるアリの/一匹として生きてきた/フェイクの味に酔い/部外者に堕ちまいと/やわい言葉吐きながら/配給される悦びを/あえて疑わずに>>。ここで歌われる「フェイク」は『フェイクファー』などのそれと似て非なるものだろう。体よく「配給される悦び」に騙されていると分かりつつも、溺れてしまう自分の弱さなどを指すように思える。
<<本当の温もり想定して/すすけている鳩を解き放て>>も、「本当の」と言う言葉が今までの「配給される悦び」との決別を雄弁に物語っている。
しかし、<<その時が来ることを/すぐにでも来ることを/最高の旅立ちを/今日も夢見ている>>だけで、結局、虎視眈々と狙っているだけのあたりはさすがスピッツと言う感じだろうか。


10.聞かせてよ
「シロクマ」、「つぐみ」と同系統の「まる」の部分を指すポップソング。
<<言い訳の作法なんて/捨ててしまった>>自分がどう相手と繋がっていくのか。
個人的には<<君の声で/僕は変わるから>>よりも「変わるかも知れない」と歌った方が、説得力があるように思えはするが、<<新しい甘い言葉で/愚かになりたい>>は、中期スピッツの猿性を匂わせる。<<懐かしい苦い言葉で/素直になりたい>>も、懐かしい言葉で素直と、新しい言葉で猿との対比に一躍買っていて面白い。


11.えにし
「日曜日」の更に次の地点のような、背徳の歌。
恐らく、昔の恋人(<<大切にしてた/古いラジカセから/聴こえてきてたような>>)あるいは恋人持ちの相手との恋愛関係を歌っている。
<<説明書に書いてないやり方だけで/憧れに近づいて>>や<<何となく信じてた伝説すべて/わがままにねじまけて>>は、まさに伝統的な(少女漫画的な、とでも言えるか)「正攻法」を捨て行く事を意味してる(「ビギナー」の純粋さゆえの背徳と言うか)し、その先に<<美しい世界に/嫌われるとしても/それでいいよ/君に出会えて良かった>>は、許されないやり方をもってしても、君といる今の方が素晴らしいと言う歪んだ純粋性が浮き彫りになっていく。しかもタイトルは「えにし」。
<<伝えたい言葉があふれそうなほどあった/だけど愛しくて忘れちまった>>は、このアルバムのサビの中でも最も強烈な一節の一つで、「君」に耽溺していく自分の姿が刹那的で良い。


12.若葉
近年のエレファントカシマシを思わせるような、曲構成とタイトルの曲。「聞かせてよ」に続く「まる」の側面。
このアルバムで唯一の失恋の曲でもある。
<<いつもと違う/マジメな君の「怖い」ってつぶやきが解んなかった>>は、どこか初期を思わせる、自分の一人歩きを揶揄される言葉として面白い。基本的には彼らが失恋ソングでお得意とする、昔の自分たちの痛々しくも色のあった日々と、今の色の無い日々の対比になっている。しかし、<<少しでも近づくよ/バカげた夢に>>も、最早、一種の恐ろしさをもって聴こえる。


13.どんどどん
セルフプロデュース曲。タイトル通りの「どんどどん/どどどどんどどん」といった感じのリフが印象的な曲。曲構成やタイトルの雰囲気は、100sを思わせる。
現代スピッツには珍しい、久し振りのセックスソング。
<<天使もシラフではつらい/僕のハンドル壊れてるくさい>>や<<ちょうどセンターでランデブー>>、<<青とピンクの音に酔いましょう>>などは、妖艶でセクシャルな感じが出ていて痛快。
サビの<<かわいい君が呼んでいる>>や<<悩みの時が明ける>>は分かるが、<<初めての懐かしさ>>が、どこか相変わらず「えにし」の時と同様の昔の恋人との情事を思わせる。
歪んでいった純粋性や欲望は、この曲で加速され、次の最終曲で爆発することになる。


14.君は太陽
純粋性を保ったまま迎える、これまでにないほどの最上の背徳ソング。
陽性のアップビートのサウンドに乗せられる歌詞は、出だしから<<「あきらめた」つぶやいてみるけど/あきらめられないことがあったり>>と既に危うい。
1番の歌詞のは抑え気味ではあるが、2番のそれは完全に歪んでいる。
<<渡れない濁流を前にして/座って考えて闇にハマってる/愛は固く閉じていたけど/太陽/君は輝いて僕を開く>>…「渡れない濁流」、「愛は固く閉じていたけど」、「君は輝いて」。。要するに、ここでの「君」は恋愛ではない、あるいは、「えにし」で歌われている「説明書に書いてないやり方で」結ばれている二人である。
その証拠に、直後のサビでは、こう歌われている。<<こぼれ落ちそうな/美しくない涙/だけどキラッとなるシナリオ>>…「美しくない涙」は完全な背徳を示しているし、「キラッとなるシナリオ」は、もしそれが背徳であっても、自分はそれに耽溺するくらいまでの純粋さがあるからである。「想像上のヒレで泳いでいくのだ」も「ビギナー」の「懲りずに憧れ練り上げた嘘」を思わせる。
悪気はなくはないのだけど、もう自分を止めることはできないという感覚。<<止めたくない今の速度/ごめんなさい>>
そして、こんな言葉で、このアルバムは終わる。
<<理想の世界じゃないけど/大丈夫そうなんで>>
完璧だ。


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この記事に対するコメント

google検索から来ました(^^)v
スピッツが昔から大好きで、「とげまる」もよく聴いているんですが
このブログに書かれている解説がとても面白く、これからまた違った楽しみ方ができそうです(*´∀`*)
特に「ビギナー」から「君は太陽」までの一連の流れに対する解釈が自分にとって斬新で、少し衝撃的でした!(^o^)!
君は太陽がそんなダークな曲だったなんて・・・笑
ローランダー | 2012/05/08 11:31 PM
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