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(勝手に)ART-SCHOOLやSPITZやGRAPEVINEの楽曲を全曲解説するBLOGです。
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『オーロラになれなかった人のために』(Rewrite)

 
現時点で、スピッツ唯一のミニ・アルバム(e.p.を除いた場合)。

今でも賛否両論とも言われる、オーケストラを大々的にフィーチャーして草野マサムネのソロのようなテイストに仕上げた、本人曰く「スペシャル・ミニ・アルバム」。

前作『名前をつけてやる』から僅か5ヶ月でレコーディングされたこともあり、世界観としては前作をある程度、引き継いだ感触であり、オーケストラをしたがえたからと言って、殊更に明るくなったり、無闇に壮大になったりしているワケではない。
むしろ、詞世界の歪つな感じはいまだに色濃く出ている(「ナイフ」などは特にそれが秀逸)。

そもそも、『オーロラになれなかった人のために』と言うタイトルからして、退廃的な感覚を打ち出している。
別冊宝島誌36によると「アラスカの北極圏に住む先住民の『死んだ人はオーロラになる』と言う言い伝えから採ったタイトル」であるとのこと。と、すると、さしずめ、「死に切れなかった人のために」といったところか。相変わらず、後ろ向きでダウナーな世界を引きずっている。


オーケストラを取り入れた背景にはプログレへの憧憬が少なからずあった(マサムネいわく「お茶の間プログレを目指した」とのこと)と言う。しかし、全曲プログレ的と言うよりは、セカンド・サマー・オブ・ラブ的なグルーヴィーな楽曲まである。単行本『旅の途中』によると田村はアレンジにThe Who『四重人格』を引き合いに出してオーダーしていたとのこと。

内ジャケのアー写はThe Smithsを意識したものか。

次作『惑星のかけら』は打って変わって、あくまで4人のバンドサウンドを大前提にしたグランジ/オルタナのアルバムを打ち立てたのも納得できる、良くも悪くも広がりすぎたアルバム。

92年4月リリース(『名前をつけてやる』から半年以内)。


 
1.魔法
アルバムの始まりを告げるこの曲は、大々的にオーケストラをフィーチャーしつつ、アコースティックの絡みがシンフォニックなイントロから始まる。
確かに、サウンド的に見れば今までよりも格段に広がりを持ったそれになってはいるが、詞世界は相変わらず<<消えてしまいそうな老いぼれの星>>を、君の<<最後の祈り>>でごまかそうとしている辺りが、やはり閉じている。
<<サビついた自由と偽物の明日>>、<<あの河越えれば君と二人きり>>と言うのも、今更というくらいに初期スピッツの世界観を捉えているが、一見、終わるように思えて、ゆったりと間奏に流れ込むあたり、Pink Floyd的プログレ感を湛えていると言えなくもないか。


2.田舎の生活
地味ながら、隠れた名曲の代表曲。
『一期一会』での、エモーショナルかつセンチメンタルなLOST IN TIMEのカヴァーも秀逸(ちなみにTHE NOVEMBERSもライヴでカヴァーしているのを個人的に彼らの活動としては初期にあたるツアーの梅田ファンダンゴでのワンマン公演にて確認している)。
タイトルに関しては、別冊宝島誌36によると実際にマサムネが岐阜県で「田舎の生活」を体験したことがベースとなっているとのこと(なお、00's半ばに流行った有名な某同人ゲーム・アニメ・漫画etc…の舞台のモデルとなった場所と同じ場所である。そう考えると、違った側面が見えてくる…かもしれない。苦笑)。
手数のすくない淡々とした演奏が、田舎の閉鎖的でありながら、温かくもある雰囲気を上手く表している。
のだが、<<言葉にまみれたネガの街は続く>>や<<終わることのない輪廻の上>>とどう読み取っても、連綿と連なる永遠のごとき閉塞感を伴って歌われているのが分かる。
<<君>>と二人で描いた<<必ず届くと信じていた幻>>は、無残に砕け散り、その残骸だけ、意味を失くした言葉に溢れた、田舎との決別。
<<窓の外の君にさよなら言わな>>いと、終わることのない輪廻に飲み込まれてしまう。だから、壊れながらも田舎から抜け出て進んでいくことを決めた、脆くも強かな歌。


3.ナイフ
スピッツ史上、最も不気味でパラノイックな狂気に満ちた曲であると同時に現時点で最長の曲。
「小さくて、無防備で、無知で、のんきで、優しく、嘘つき」な君の誕生日にハンティング・ナイフをプレゼントすると言う歪み倒錯した情欲を歌った不気味な歌だ。
言うまでもなく、ここでの「君」はイノセントである。無垢である。
その君にゴツいナイフをプレゼントすることで、無理やりに君を覚醒し、汚してしまおう、壊してしまおう、と言う身の毛のよだつ狂気。ペドフィリアともまた違う、歪みきった性癖を剥きだした、この曲はマサムネの書いた詞の中でも一際、偏執的で潰れ切っている。
<<血まみれの夢/許されて/心が乾かないうちに>>と君を徹底的に壊し切ってしまおう。そう願っている。
<<サルからヒトへ枝分かれして/ここにいる僕らは>>の一節は、恐らく彼らが後に何度も用いることになる「サル」性を初めて用いた曲になるのだが、ここでは理性では決して抑えられないリビドーからくる破壊欲をむき出しにしているようだ。
気味悪く、幽玄で主観の内に閉じ切った世界。
「Holiday」がストーカーちっくのライトなヤンデレ曲だとすれば、この曲はまさにThis Is Yandereとでも言えるような、倒錯者の偏執的な妄想と言えるだろうか。
後に37thシングル「シロクマ/ビギナー」のカップリングとして、まさかのライブ音源化。


4.海ねこ
前曲の歪みきった陰鬱をごまかすようなアッパーな曲。
セカンド・サマー・オブ・ラブからの影響を受けたようなイントロのベースラインがPrimal ScreamやHappy Mondaysなどの当時のマンチェ勢を彷彿とさせる。
それも含めて全体的な曲の雰囲気や世界観は4th『Crispy!』を先取りしているかのよう。
<<今日/一日だけで良い/僕と二人で笑っていて>>と言うサビのフレーズはART-SCHOOLを、そのサビ後の<<パッパッパ~>>と口ずさむスキャットはKARENを思わせるし、どことなく木下理樹の詞世界への影響も考えられる。<<はじめからこうなるとわかってたのに>>がポジティブに取れるかネガティブに聴き取れるかも重要だ。


5.涙
全編マサムネのボーカルとカルテットのみで構成されている。
スピッツの全楽曲の中でも地味な部類の曲にはなるが、このアルバムのシメの曲としてはなかなか良い味を出している(なお、曲自体はインディーの頃からあり、それは一転して、地味どころか、かなりパンキッシュな曲調である)。
サビのフレーズはマサムネの「女性」への触れられない感覚を上手く表しているし、<<だけど君はもう気付き始めるだろう〜>>のフレーズは、「田舎の生活」とは対照的に僕から離れていく君を描いている。
また「魔法」や「魔女旅に出る」などと、同様に<<選ばれて君は女神になる/誰にも悟られず>>と「魔の力」による「少女から女性へ」のテーゼを歌った曲である。<<本当は一人ぼっち>>で<<月のライトが涙でとびちる夜に>>「女神になる」君は、少女から女性へと変わることのメタファーと取れるだろう。
個人的にはこの曲調も相まって、10年代に名を馳せた某魔法少女アニメを観た時に真っ先にこの曲を思い出してしまった。「涙」と同時に、それを抱えて無惨に「魔法『少女』」から「魔女」へと変身してしまう彼女等の悲しみは、数十年前にこの曲で体現されているようにも思えたのだ。
何より「少女から女性」へのテーゼ(あるいは「少年から男性へ」)はある種、このアルバムの核心とも言えるかも知れない。それは何にも汚されていない純真から、汚れをしってなおも、『オーロラになれなかった人』として進んでいくことである。


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